慣性特性特集: 【適用事例】振動を減らす事への適用 - エンジンマウントの設計
【適用事例】振動を減らす事への適用 - エンジンマウントの設計
数多くの適用事例の中から一つ、振動を減らす事への慣性特性の利用として、エンジンマウントの設計の事例をご紹介します。
エンジンの動力は、ガソリンの燃焼でクランクシャフトを高速回転させる事で生み出されますが、その際にガソリンの燃焼爆発、エンジン部品の剛性(変形しにくさ)などに応じて、エンジンからは強い振動が発生します。
この振動がキャビン(人が乗車するエリア)に伝わると乗り心地が悪くなります。そのため、エンジンと、キャビンにつながるボディとは、エンジンマウントと呼ばれるゴム製の衝撃吸収部品によって結合され、(図『エンジンマウントの構造』を参照)これによりエンジンの振動の一部はエンジンマウントで吸収され、キャビンまでは振動が伝わりにくい構造になっています。
エンジン | クランクシャフト | エンジンマウント |
エンジンマウントの構造
エンジンマウントの位置
このような構造を踏まえた上で、もし設計段階で、振動をより少なくするために、色々な種類のエンジンマウントを交換しながら、また設置位置をいろいろ変更しながら何度も実験を繰り返せば、地道で膨大な工数が必要になる事は容易に想像できます。
このような課題を解決する方法の一つに CAEソフトと呼ばれる解析ソフトを利用する方法があります。
CAEソフトを使えば、コンピューターの仮想空間内に実物に近い仮想モデルを作成し、仮想実験(解析)を行う事が可能になり、これにより仮想空間内で簡単にエンジンマウントの種類、設置位置などを自由自在に変更しながら設計評価を繰り返す事が可能になります。以下に、CAEソフトでのモデル化の概要を示します。
CAEソフトでモデル化する主な要素とその設定値
実物 | モデル化要素 | 設定値 |
---|---|---|
エンジンの振動 | 加振条件 | 加振波形 |
エンジン | エンジンモデル | 慣性特性 |
エンジンマウント | バネとダンパーの組み合わせ要素 | バネ係数、減衰係数など |
最低限の解析は、上記基本要素をCAEソフトで作成し、何かしらの設定値が存在すれば実行する事ができます。
さて、表中2行目のエンジンの設定値に、今回のテーマである慣性特性があります。
慣性特性とは1つの物体(剛体)が持つ複数の慣性特性値のセットの総称で、質量特性や剛体特性とも呼ばれます。剛体とは、いかなる場合も変形しない計算上の物体の表現です。
慣性特性に含まれる項目は以下の通りです。
慣性特性
- 重心位置
- 質量
- 慣性テンソル(任意の物体固定座標系の指定が必要)
- 慣性モーメント
- 慣性乗積
例えばCAEソフトで部品をモデリングし材料密度を定義すれば、慣性特性値はCAEソフトによって自動的に計算され、部品に自動的に設定されます。そして、先の表『CAEソフトでモデル化する主な要素とその設定値』の残りの条件を定義すれば、そのまま解析を実行し結果を得ることができます。
ただし、もちろんこの方法でも設計検討はできますが、この方法では、実際の部品寸法が誤差分理想寸法値からずれているのに対し、CAEソフトの部品モデルの寸法が理想寸法値である事から来る、現実の結果と解析結果の食い違いが構造的に生じます。
そして、また、それに対して、多くのCAEソフトには高精度な解析をしたい場合のために、この食い違いを排除する手段も用意されています。
それは、別途実測した実物部品の慣性特性値を、CAEソフトの部品モデルに直接定義する方法です。
この方法についてのイメージ図を示します。
CAEソフトへの実測値の設定イメージ
また、このような方法を取る場合、設計の流れの例は以下のようになります。
チャート:CAEソフトを利用した設計検証例
MBD(モデルベース開発)との関係
なお、ここでは詳しく触れませんが、自動車業界などで採用されている開発手法に
MBD ( Model Based Development/モデルベース開発)という手法があります。そして、ここに出てきた「モデル」という言葉は、MBD(モデルベース開発)の「モデル」と同じものを指しており、以上の内容はMBDの中の一部分の話しと見ることもできます。
すなわち、慣性特性はMBD(モデルベース開発)に取っての重要な要素の一つでもあります。
※ ここに登場した用語の説明は、弊社バーチャル展示会Webサイト「計測・試験機器総合Web展」の「計測・試験機器総合Web展用語集」にもございます。用語のイメージがつかめない場合などに、下記リンクより補足情報としてご覧いただければと思います。
関連ワード: CAE、 剛体、 重心位置 (COG)[慣性特性]、 質量[慣性特性]
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